2021.07.12
事務所からのお知らせ熊本職員コラム週刊税務通信 No.3662 令和3年7月12日号に、熊本本部所長・岡野の記事が掲載されました。
実例から学ぶ税務の核心
~ひたむきな税理士たちの研鑽会~
<第57回>
中小企業におけるM&Aの法務上の留意点
大阪勉強会グループ
濱田康宏
岡野訓
内藤忠大
白井一馬
村木慎吾
1 はじめに
濱田) 令和3年度の税制改正で,M&Aを促進するための新たな制度が創設されていますね。
村木) 具体的には,「株式対価M&Aの株式譲渡損益の繰延制度」と「中小企業事業再編投資損失準備金制度」ですね。
岡野) 前者は,会社法の株式交付制度により株式等を譲渡し,株式交付親会社の株式等を取得した場合には,譲渡した株式等の譲渡損益を繰り延べるというものですね。後者は,M&Aにより取得した株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てた場合には,その金額を損金算入できるというものです。
内藤) 今や,M&Aは大企業だけの行為とは言えず,中小企業においても徐々に広がってきている印象です。
白井) 東京や大阪といった大都市圏だけでなく,地方において後継者不足で悩んでいる中小企業の事業承継対策としてもM&Aが有効な手段となり得ますね。
濱田) そういった背景がありますので,今回は,税理士目線から見た中小企業におけるM&Aの法務上の留意点について議論していこうと思います。
2 M&A仲介業者の利益相反取引
濱田) ここ数年,M&Aを仲介する業者が雨後の竹の子のように増えてきたように感じます。不動産取引と違い,特に免許等がいるわけではないので,ただ,「私はM&Aの仲介業者です」と手を挙げれば誰でもこの業界に入ることができるのですね。
岡野) 決算書を読めないような仲介業者さんもいるようですね。ただ,「売りたい」「買いたい」という会社同士をマッチングさせるだけのような。
村木) 最近では,M&A仲介業者の利益相反取引が問題視されているようです。
内藤) 昨年末に,行政改革担当大臣の河野太郎氏がご自身のブログで,M&A仲介業者の利益相反取引について言及し,次のコメントを出していますね。
しかし,こうした中には売り手と買い手の双方から手数料を取ってM&Aを仲介する業者がいます。
この場合,売り手は一回限り,つまり自分の企業を売却すればそれ以上売り物はありませんが,買い手はその後も企業を買い取る可能性があります。
仲介者にとってみれば,一回限りのビジネスしかならない売り手に寄り添うよりも,今後もビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。
双方から手数料をとる仲介は,利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています。
中小企業庁は,「中小M&Aガイドライン」を策定し,売り手と買い手双方の一者による仲介は利益相反となり得る旨を明記し,両者から手数料をとっているなどの不利益情報の開示を徹底するなどリスクを最小化する措置を講じること,他のM&A支援業者などにセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とすることを求めています。
中小企業庁は,来年3月末までにそれらをさらに徹底する措置を確定し,来年夏までにその仕組みが動き出すように務めています。
【衆議院議員 河野太郎公式サイト
2020年12月18日】
岡野) 既に3月末は過ぎているのですが,現時点であまり動きはないようですね。
村木) ただ,M&A仲介業者の登録制度については,今年中にスタートするための議論が開始しているようです。
濱田) ところで,不動産仲介の場合は,いわゆる両手取りOKですよね。M&A仲介の場合はどうして問題視されるのでしょうか。
村木) 不動産仲介の場合は,手数料率が法定されており,上限設定がありますが,M&A仲介の場合にはそのような制限がないことも1つの理由なのでしょう。
岡野) 過去に不動産仲介の両手取りも規制すべきと民主党政権時に問題になったことがあるようです。最終的には業界の反対で断念したようですが,こちらも今後見直しされていくのかもしれませんね。
白井) 仲介業者と同じく,M&Aの助言を行うフィナンシャルアドバイザーと言われる人たちもいますね。業界用語で「FA」と呼ばれている人たちですが,彼らは仲介業者とは役割が違うわけですね。
村木) M&A仲介業者が,売手と買手企業の双方に助言サービスを提供するのに対し,フィナンシャルアドバイザーと呼ばれる人たちは,売手か買手企業のどちらか一方のみのアドバイザーとして,助言サービスを提供します。彼らの目的は,顧客の利益最大化であり,マッチングに力を注ぐ仲介業者とは役割が違ってきます。
内藤) 税理士が,M&A仲介業者あるいはフィナンシャルアドバイザーに就任する場合もあるのですよね。そのためのネットワークを持っている前提ですけれど。
岡野) 仮に税理士がM&A仲介業者に就任する場合,仲介業者がマッチング機能のみならず,条件交渉にまで関わってくるとなると,利益相反の問題が生じることになります。
濱田) 税理士の立場としては,売手と買手の双方がクライアントであるというM&Aの仲介を行うケースも想定されます。この場合,どちらかに助言すれば,相手側の利益に反することになり,中立の第三者として当事者間の調停をすることは不可能です。このような行為が,必ず利益相反になるのでできないというわけではありませんが,利益相反の恐れのある行為である,ということは最低限認識しておく必要がありますね。
(以下略)
(熊本本部スタッフ)